「イツキさん!」
どこからか、足音が近づいてくる。
「どうした、テツ」
振り向くと、タクマに買い出しを頼まれていたテツが走ってくるのが見えた。
テツはイツキの前まで来ると、息を切らしながら言った。
「大変っスよ!あいつらがこっちに向かってるんです!しかもかなりの数っス!」
――げっ。楓は焦った。
「…"風神"か」
テツが必死になって何度も頷いた。
「どうしたらいいッスか?オレら何もしてないッスよ。なんであいつらが来るッスか。あっもしや奇襲っスか?これがいわゆる奇襲ってやつなんスか?イツキさん!」
「テツ、落ち着け」
タクマがすぐさまテツをなだめた。
「不意打ちなんてあんまりッスよ…」
今すぐにでも気を失ってしまうんじゃないかと思うぐらい、テツの顔色はひどく青白く、目には涙を浮かべて膝をがくがくと震わしていた。
今時パンチパーマにサングラスといういかにもな出で立ちのわりに、中身は結構気が弱い。だからといって、
ねえ、テツくん。
ごめんなさい。
"風神"呼んだのあたしです。
とは言えず、楓は見て見ぬ振りをする。
カズが睨んできたのが分かったけれど、その視線にも気付かないようにした。

