あたしはこの時、初めて彼の涙を見た。

夜のネオンを映し出したその瞳に光る小さな雫。





あたしはそっと彼の手を握りしめる。

彼もまた強く握り返してくれた。






虹色のブレーキランプ。
風を切る白い車。


絶えない笑い声。


優しいぬくもり。

首筋のタトゥー。
王冠のネックレス。



甘い香りの煙草。




あなたの低い声。
あなたの笑顔。



流れ星のように次々と流れる雑居ビルのネオンに、あたしは何度も何度も願わずにいた。




お願い。
神様。



どうか。




この優しいぬくもりが消えてしまわないように。

離れてしまわないように。









窓を開けると温かい風が靡く。




それからゆっくりと目を閉じてーーー。













あたしは、風になった。