「あの、この前はすみませんでした」
ひとまず話題を変えようと言葉を駆け巡ると、楓はイツキに会ったら謝るつもりだったことを思い出した。
「あたし、どうしてもイツキさんを助けたくて…」
「そのことはもういい」
甘い香りが漂う。
イツキは煙草に火を灯していた。
やっぱり呆れられちゃったかなと落ち込んでいると、イツキが続けて言った。
「今ここにあんたがいるからもういい」
どきり、とする。
その黒々とした瞳はあたしをしっかりと映し出していて、思わず引き込まれそうになる。
「あの時、俺はあんたのことを失いたくないと思った」
「……」
「笑うよな。楓を助けてくれって俺、柄にもなく神様なんかに祈ってさ」
ううん、と楓は首を振る。
「俺のことは殺してくれていいから、あんただけは絶対に助けてくれって何度も何度も祈ってたよ」
目頭が熱くなる。
やっぱりあの声は。
あの温もりは彼だったんだ。
ーー俺を独りにするな。
あの言葉も。

