「楓」
ふと、あたしを呼ぶ声がした。
振り返ると、いつの間にかイツキの姿がすぐ近くにあって、鼓動が大きく高鳴った。
「ジュン。お前、どさくさ紛れに楓に抱きつくなよ」
「あ、いや。これはあたしが…」
慌ててジュンを引き剥がす。
イツキは目の前にしゃがみ込むと、ゆっくりと楓を見上げた。
「久しぶりだな」
「…はい」
うまく目を合わせることができない。
真っ直ぐ見つめられて、あたしの鼓動がどうにかなってしまいそうだからだ。
「足、大丈夫か」
「…はい。あと二ヶ月もすれば歩けるようになります」
「ならいい」
イツキは安心したように息を吐くと、後ろを振り返った。
「彬」
「今度はなんだよ」
ガヤは燃え尽きたのか大の字になって寝転がっている。
「楓。借りていいか」
間が空く。
ガヤはちらりとこちらを一瞥すると、面倒臭そうに頭をぽりぽりと掻いた。
「おりゃ楓の父親でも兄貴でもねえ。勝手にしろ」
ふいに腕を引っ張られ、自分の体が宙に浮いた。
タクマとカズが冷やかしの口笛を吹く。
「悪い。ちょっと付き合って」
「えっちょ…」
もはや声も出ない。
イツキの顔がすぐ目の前にあって、あたしは今俗に言うお姫様抱っこをされている状態だ。
真っ赤になって俯く楓にジュンがそっと耳打ちをした。
「頑張れ」
たった、その一言。
だけどあたしにとってそれは。

