「…でも」
「ほら。一兄と彬兄、楽しんでるでしょ」
「えっ」
恐る恐る目を開けてみると、イツキとガヤは傷だらけになりながらも、その表情は確かに生き生きとしていた。
殴られて痛いはずなのに、どうして。
「きっと彬兄が言ってた通り、拳を交わすことにちゃんと意味があるんだよ。言葉じゃない何かを伝え合ってるんだ」
あたしはそれまで殴り合いに何の意味もないと思っていたけれど、二人の楽しそうな顔を見てなんとなくその意味が分かったような気がした。
言葉じゃない「何か」。
ふたりは体を張ってその「何か」を真正面からぶつけ合っているんだ。
「ねえ純平くん」
楓は言った。
「あたし、こういう喧嘩なら何度も見ていたいな。最後じゃなくて、これからも何度も」
「楓さん…」
「きっとこれが最後じゃないよね」
ジュンは微笑んだ。
「…うん。そうだね」
それから何時間が過ぎたのだろう。
イツキとガヤはほぼ互角で、長い間接戦が続いていた。

