「誰に?」
「ほら、向かいの藤ヶ谷さんのところの彬くん。あんたが目を覚ますまでずーっと一緒にいてくれたのよ」
「…ふうん」
「それと、もう一人」
母は首筋をトントンと指差しながら言った。
「ここにタトゥーのある男の子にもね」
どきり、とした。
脳裏に浮かぶ鮮やかな昇り竜。
きっと彼のことだ。
すると何かを感付いた母が怪しげな笑みを浮かべた。
「彼氏?」
「ち、違うよ!」楓は慌てて否定する。
「顔赤くなってるわよ」
「もういいから仕事行きなって。遅刻するよ」
火照った顔を隠しながら、しっしっと母を遠ざける。
「今度紹介しなさいよ」
笑い声を残して、母は今度こそ病室を後にした。
楓はもう一度左手を眺める。
…やっぱりあれは彼だったんだろうか。
あたしが目を覚ますまでずっと手を繋いでくれたのは。
左手に残る優しい温もりがいつまでも消えない。
ふと、背後でスリッパの足音が聞こえた。
お母さん忘れ物したのかな。
振り向くと、そこには懐かしい顔。
「楓さん!」
扉の向こうでジュンがにひひ、と白い歯を見せ松葉杖ごと手を振っていた。
「純平くん!」
そういえばここはジュンが入院している病院でもあったっけ。
ジュンの隣にはガヤの姿もあった。
「もう大丈夫なのかよ」
心配そうに駆け寄ってきたガヤに、楓は「大丈夫だよ」と答える。
ガヤの顔を見るのは二週間ぶりになる。

