「嵐が来るな」
やがて、イツキが静かに口を開いた。
その目がいきなり自分に向けられ、楓は眉をひそめる。
「あいつを助けに呼んだのか」
と彼は言った。
すると、タクマとカズが揃って目を大きく見開いた。
「おいおい、女。まさかあの"風神"をここに呼んだんじゃねえだろうな」
そう言ってカズは口元を引きつらせていた。
――"風神"。
またも出た、それ。
やっぱりどこかで聞いたことがあるのは間違いない。
どこだろう。
どこだったっけ。
誰だったっけ。
誰―――。
ふと、見慣れた顔が思い浮かんだ。
まさか。
曖昧だった記憶が次々によみがえる。
確かあの日は、去年の夏。
――風の神だよ。
そう言って、彼が羽織った黒の特攻服の背中には
風を操る、鬼と
"風神"
の文字が白い糸で縫い表されていた。

