おれは急いでおぼつかない足取りのイツキを支える。


「大丈夫か?」

「ああ…。それより」


イツキはおれの肩に目をやった。

ああ、とその意図を察する。


「かすり傷だ。なめときゃ治るよ」

「そうか。ならいい」

「藤ヶ谷さん!車の手配できました」


外でテツが手を振っている。

まだ雨は止んでいなかった。


「ああ、今行く!」


おれはイツキの体を支え、勢いよく立ち上がる。


「彬」

「今から病院に連れて行く。先生には階段から落ちたって伝えておいてやるよ」


ふっ、とイツキは笑った。

そして、


「ありがとな」


と言った。


「…まったくだよ。誰かさんのせいでおれまでこんな怪我しちゃったしよ」


お礼を言われることに慣れていないおれは照れ隠しに嫌味を吐く。


「それは俺のせいじゃないな」

「ああ!?」

「冗談だよ。今度メシでも奢る」

「じゃあ特上寿司な」

「三百円までだ」

「なに食えっつーんだよ!遠足のおやつか!」

「いい突っ込みだ」


くっくっと肩を揺らすイツキに、おれもつられて笑った。