「なるほどな」
イツキが全てを悟ったように口元を上げる。
タクマとカズに目を向けながら彼は言った。
「それでお前らは俺にどうしてほしいんだ。この女を連れ出せば俺の考えが変わるとでも思ってたのか」
タクマが首を小さく振った。
「違えよ。オレらはただイツキがあの男と」
「勝手な真似するな」
ふっ、と甘い香りが消える。
イツキはそばにあった排水溝に煙草を乱暴に投げ捨てると、そのまましゃがんで外をじっと見つめた。
「あいつはもう仲間じゃない。俺には関係ない奴だ」
まるで自分に言い聞かせるように呟いたその小さな声は、コンクリートを激しく叩きつける雨音と重なる。
ふいにイツキの横顔がどこか悲しげに見えて、楓はなぜか胸が締めつけられる思いだった。
彼を気づかうようにタクマとカズもまた、それ以上口を出すことはしない。
一体、彼と"あの男"の間に何があったのだろうか。
それは深い、深い溝。
決して埋まることのない溝が、彼らの前に立ちはだかっているように思えてならなかった。

