「とにかくあなたのことを話すお兄ちゃんはとても楽しそうだった。あんなに笑うお兄ちゃんは珍しいぐらい。それぐらいお兄ちゃんはあなたのことを気に入ってたのよ」

「…でも」


楓は由希の胸元で輝くネックレスを見つめた。

ついこないだまであたしも同じネックレスをしていたはずだった。


ーー二度と、俺の前に顔を見せるな。


あの時、イツキに冷たく突き放されるまでは。

あたしが今一歩踏み出せないのはきっとこれ以上彼に嫌われたくないからなのかもしれない。

すると今度は楓の考えていることが分かったのか、由希は呆れたように吐息をついた。


「あなた、今までお兄ちゃんの何を見てきたの?」

「…えっ」

「どうして私があなたとお兄ちゃんを引き離そうとしたと思う?これ以上一緒にいてもお互いが辛い思いをするだけ。お兄ちゃんもあなたも幸せになれない。そう思ったから私はお兄ちゃんに言ったの。“楓さんのことが本当に大事なら距離を置くべきだ”って。それが二人のためになると思ったから」

「……」楓は言葉を失う。


ーーそんな。

まさか。


「だからお兄ちゃんはあなたを遠ざけた。それがどういうことか分かる?お兄ちゃんにとってあなたが本当に大事な存在だからよ」





…人間っていうのは不思議だ。


ーーごめんな。楓。


泣いても泣いても、冷たい雫が次々と溢れてくる。

とっくに乾いたと思っていたのに、涙がとめどなく頬を伝うんだ。

今、やっと分かった気がする。

あの時、どうしてイツキが謝ったのか。

やっと、分かった。