≪…でも≫男は口ごもった。

「なんだ」

≪イツキさんが…≫


その名前にぎょっとする。

もしや…。


≪さっきイツキさんが来て、事情を話したら、真っ先に後を追っていっちゃったんですよ≫


おれは思わず頭を抱えた。

嫌な予感、的中だ。


「てめえ!なんでそれを先に言わねえ!今すぐイツキの後を追え!あいつに手出しをさせるな!」

≪は、はい!≫


乱暴に投げ捨てたケータイは二バウンドして、座席の下に落ちた。

もう拾う余裕さえない。


「あの野郎…!予定が狂った」

「どうした、何かあったのか?」


ミラー越しにタクマが心配そうに目を向けてくる。


「どうもこうもねえよ!セイジの野郎、カズ連れて逃げやがった。とにかく急いでくれ!」


ぽつり、と雨の一雫が窓を伝う。

おれは祈る思いで拳を強く握りしめた。





どいつもこいつも。



なんでじっとできねえんだ…!





イツキ。




頼むからムチャすんじゃねえぞ!