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「イツキ、病院にいなかったのか」


はい、と由希は頷いた。

ということはイツキはもうセイジのところに向かっているのか。


「カズっていう人、見つかったんですか?」

「まあな。今から取り返しに行くんだ」

「そうですか…」


由希は少し俯いて、静かに地面を見下ろしていた。


「藤ヶ谷さん…」


それからイツキと同じ形をした赤い唇がゆっくりと口開く。


「お願いです。お兄ちゃんを止めてください」


思いがけない言葉に、おれは戸惑った。


「藤ヶ谷さんも知っていると思うんですけど。お兄ちゃん…本当に危険な状態なんです。本当は安静にしてなきゃいけないのに、今喧嘩なんてしたら…。もしかしたら取り返しのつかないことになっちゃうかもしれないんですよ」


由希の声は今にも泣き出しそうだ。

女の涙に弱いおれは激しくうろたえる。


「それに…」


と口を噤む由希。


「それに?」


少しの、沈黙。

それから彼女は言った。


「お兄ちゃんには生きてもらわなきゃ困るんです。ひょっとしたらお兄ちゃんの病気が治るかもしれないんですよ」