「さてと、そろそろ行くか」
空は星一つ光っておらず、暗闇に染まっている。
プレハブの前に停めていたパールホワイトの車に乗ると、窓の外で人影が見えた。
「…あの女」
おれは運転席のタクマに車を止めるよう呼びかける。
「ちょっと五分程待っていてくれ」
車を降りると、体育館の廊下でしゃがみ込むようにして座っていた女の元へ向かった。
「おい、そこで何してんだ」
驚いた女が顔を上げる。
赤毛の髪が揺れた。
「藤ヶ谷さん…」
「お前、確か」
「はい。由希です」
「ここで何してんだ」
由希は長い睫毛を瞬かせながら、辺りをきょろきょろと見渡す。
「イツキならここにはいねえよ」
おれがそう言うと、由希はため息を漏らして呟くように言った。「お兄ちゃん、やっぱり行ったんだ…」
「お前、イツキの妹なんだってな」
あの海でイツキに病気のことを聞かされたとき、この赤毛の女のことも教えてくれた。
イツキに兄妹がいることを知らなかったおれは驚いたが、こうして見ると確かに雰囲気がどことなくイツキと似ているかもしれない。

