「行くぞ!」

「ちょっ…ガヤ!痛いってば!どこに行くのよ!」


腕を強く引っ張られ、着いた場所は川がよく見える小さなアパートだ。

その駐車場にガヤのバイクが停められていた。


「うっせえ!黙って乗れ!」


あまりのすごい形相に、これ以上口答えすると本当に殴られそうな勢いだったので、楓はガヤからヘルメットを渋々ながらも受け取り、バイクの後ろに跨った。


ーーせっかくここまで来たのに。


楓はがっくりと肩を落として、遠のいていく景色に目を移した。

でも一つだけ分かったことがある。

それはあのビルの六階に何があるかということ。

エレベーターの階数表示にそれは書かれていた。


ーー脳神経外科。


あまり聞きなれないけれど、病院だということは分かる。

でもどうして病院…?

もしかしてイツキはどこか体が悪いのだろうか。

なんだか嫌な胸騒ぎがして、楓は落ち着かなかった。


「ガヤ」


信号待ちしている間、楓は思い切って聞いてみることにした。


「イツキさん。…どっか悪いの?」


エンジンの音で聞こえなかったのかもしれない。

ガヤは無言だった。

ただ、少しだけ。

ほんの少しだけガヤの肩が揺れたような気がした。