イツキは小さく笑みを浮かべたが、おれはかける言葉が見つからなかった。
またもどかしさが心の中をかき乱していく。
「それよりどうした。俺に用があってここに来たんだろ」
ああ、とおれは我に返ると小さく頷いた。
「お前の言っていた通りWAVEのアジトに地下があった。恐らくセイジはそこを拠点としてる。カズもいるはずだ。間違いねえ」
「やっぱりな。それでどうするつもりだ」
「もちろん決まってんだろ。今夜決行だ」
「そうか…」
すると突然、イツキは前屈みになって頭を伏せた。
「イツキ?」
おれは心配になってイツキの顔を覗き込む。
そしてその異変に気付いた。
「おい。大丈夫かよ」
イツキの左手が小刻みに震えているのだ。
「心配するな。ただの痙攣だ。すぐおさまる」
しかしその表情は険しい。
右手で左手を押さえつけたまま動かないでいること数分間、やがてその震えはぴたりと止まった。
ふう、とイツキが息を吐く。
おれもほっと安堵した。

