ジュンが入院している病院から少し離れたところに木々に囲まれた大きな川がある。
そこは桜の見物スポットでも有名な場所で、春の季節になるといつも観光客や出店などで賑わっていた。
何キロメートルも続く川沿いの道を少し下っていくとやがて二階建てのアパートが見える。
"芦本"と表札が掛けられた二階の角部屋がイツキの家だ。
ケータイに電話をかけても繋がらないからここに来てみたが、インターホンを鳴らしても応答はなかった。
どこかに出かけているのだろうか。
何気なく手前の駐車場に目をやると、イツキのバイクが停まっているのが見えた。
もしや、と思い、おれはバイクを置いてアパートの裏に回る。
家と家の間に細い道があり、その道をしばらく歩いていくとやがて大通りに出る。
いろいろなチェーン店が並ぶ中で一軒だけ建っているビルを見つけるとおれは中に入り、エレベーターで六階まで上がった。
何度かここに来ているが、やっぱり慣れない。
自動ドアが開くと薬品のような匂いが鼻先を過ぎる。
平日だからか待合室はがらんとしていて、ひとりだけ長椅子に腰掛けている男の後ろ姿が見えた。
ここには不似合いな金髪。
顔を見なくてもすぐに分かる。
「おい、イツキ」
寝ていたのだろうか。
イツキはビクン、と肩を動かすと眠そうな目を擦りながら振り返った。
「彬…」
「やっぱりここにいたのか」
おれは勢いよくイツキの隣に腰掛ける。
「で、調子はどうだ?」
「…」イツキは黙ったままだ。
「よくねえってことか」
「…まあな」

