言おうとして、おれは口を噤んだ。
やめよう。
今ここでそれを口に出すことは無神経な気がした。
なにより楓を遠ざけたイツキの気持ちを無駄にしてしまう。
「どうした?」
「いや、なんでもねえ」
イツキは聞こえていなかったようで首を傾げていた。
おれはそんなイツキに笑顔を装って言った。
「まああれだ。楓と会えなくて寂しいだろうけどさ。元気出せよ。いつか楓も分かってくれるよ」
またチャリッ、と金属音。
「…そうだな」
そう言って小さく笑みを浮かべると、イツキはネックレスをポケットの中へ戻した。
おれは馬鹿だ。
結局何を言っても、今のイツキには慰めにもならない。
自分の非力さを嘆いた。
だけどこれでいい。
楓にだけは絶対に知らせちゃいけねえ。
何も知らないほうが幸せに過ごせることだってある。
これで、いいんだ。

