そういえば以前、江原先生には楓と同じ年頃の娘がいると聞いていた。
その子にも好きな人がいるらしい。
「その子の恋は実りそうですか?」
「さあ。母親としては実ってほしいけれどね」
楓は何気なく聞いてみた。
「その子の名前って何て言うんですか?」
その時、窓の隙間から強い風が吹いた。
「あらあら」
机の上にあった資料が飛ばされ一枚の写真が楓の足元にひらりと舞い落ちる。
楓はその写真を拾い上げた。
「由希よ」
と先生は資料をまとめながら答えた。
「由と書いて希望の希。江原由希っていうのよ」
果たして偶然なんだろうか。
「…どうしたの?」
写真に釘付けになっている楓を不思議に思ったのか、江原先生が後ろから覗き込んできた。
「ああそれ。私の娘よ」
入学式のときに撮ったものだろうか。
桜の木を背景にして、白いスーツ姿の江原先生とその隣に真新しい制服を着た赤毛の女の子が写っていた。
大きな瞳に、華奢な体。
その子は紛れもなくイツキの彼女、由希だった。
まさか江原先生の娘だなんて。
こんな偶然があるんだろうか。
「あたし…この子知ってます」
「ええっ?」江原先生が驚く。
「じゃあ江原先生が言っていたこの子の好きな人って…」
誰以外でもない。
あたしの知ってる優しい人。
「イツキさん…」

