潮風が吹く。

金色に染めたイツキの髪はやがて顔を出した太陽の光に包まれて、より一層明るさが増した。


「彬」


イツキは静かに言った。


「俺の話聞いてくれるか」


ああ、とおれは頷く。

でもなぜだろう。

さっきから手の震えが止まらない。

こんなに身近にいるのにどうしてかイツキが遠くに感じて、胸騒ぎがした。


「彬」


イツキの赤い唇が妖しく笑う。

そしてゆっくりと右手を挙げると、頭をトントンと指差した。


「俺の──────────────────────────────────」








それは波音にかき消されてしまいそうなほど小さな声。

けれどその言葉はしっかりとおれの耳に届いた。

さざん、と波が激しく押し寄せる。


「…嘘だろ」


おれは苦笑いを浮かべる。

きっと何かの冗談だ。


「嘘だ…」


そう信じたいのに、いつになく真剣なイツキの目が冗談ではないと物語っていた。

甘い香りが鼻先をかすめる。


「お前、俺が変わらねえって言ったよな」


煙草の煙を一息吐くと、イツキは海の向こうを見据えた。