夜空は三日月が浮かんでいる。

薄暗い闇の中、月の光だけが海を優しく照らしていた。

おれは防波堤にバイクを停め、浜辺で寝転んでいるイツキの元に向かった。


「こないだ、楓と一緒にここ来たよ」


と声をかけるが、返ってきたのは無言。

おれはため息を吐きながらイツキの隣に腰を下ろした。

しばらくの沈黙。

波音だけがおれとイツキの間をすり抜けていく。

ちらりと隣を見やると、イツキは目を閉じていた。

寝ているのだろうか。

月光に照らされたイツキの顔色はいつもよりも異様に白い。


「…おい、イツキ」


相変わらずイツキは無反応だ。

それでもおれは話しかけた。


「お前覚えてっか。おれら免許取って一番にここに来たよな。あん時ゃビビったよ。お前ありえないぐらい飛ばしててさ、おれはついていくのがやっとだった」


そういえばさっきもそうだったな、とおれは思わず笑みを浮かべる。


「お前、ちっとも変わんねえのな」


イツキが目を開ける。

そしてゆっくりとおれの顔を見上げた。

おれはその眼差しに戸惑った。

まるでなにかを訴えるかのような、どこか憂いのあるその瞳。


「どうしたんだよ。おれ変なこと言ったか?」

「いや…」


イツキは小さく首を振って、海の向こうに視線を移す。

さざん、と波音が聞こえた。