「おい、イツキ!」


何度呼びかけても、目の前の金髪男は足を止めようとしない。


「一体どうしたんだよ。あの女と何かあったのか?」


体育館の裏にあったバイクに跨るイツキの肩を引き寄せると、


「お前には関係ない」


と手を振り払われた。

イツキはなかなかエンジンが作動しないバイクに苛立ちをぶつけるかのように何度も蹴りを入れる。

いつも冷静なイツキにしては珍しく感情的になっていた。

やがてエンジンがかかると、イツキはそのままバイクを走らせる。


「おい!イツキ!どこ行くんだよ!」


おれは慌てて体育館の中にあったバイクを引っ張り出し、イツキの後を追った。

すでにイツキのバイクは遠いところにあり、次々と車を追い抜かしていた。

完全にスピード違反だ。

おれは軽く舌打ちを鳴らす。


「あんなに飛ばして事故ったらどうすんだ…」


スピードを最大限に上げる。

途中で覆面パトカーに追われたがなんとか振り払い、やがてイツキのバイクは山の中のトンネルに入っていった。

その時、おれは気付く。


――この方向はもしかして…。


予測していたとおり、トンネルを抜けると見慣れた景色が目の前に広がった。

波の音と潮の香りが過ぎる。

海だ。