「あ、あのー」
恐る恐る声をかけるとタクマと目が合った。
「どうした、嬢ちゃん」
「あ、あの、その……」
「おい女。黙ってねえではっきり喋れや」
カズの鋭い視線が痛い。
そうやって睨むから言い出しにくいんだってば!
と言えるはずがなく、小心者の楓は小さく呟いた。
「トイレ。…行きたいです」
ああ、とタクマが大きく頷く。
「いいよ、行ってきな。あ、下にあるのは男子便所だから女子は使えないようになってんだ。体育館の便所だったら女子も使える。場所分かるよな?」
「えっいいんですか」
「うん。オレらはここで待機してっから」
「女。すぐ戻ってこいよ」
「は、はい」
予想に反して、楓はすんなりとプレハブから出られた。
なんだか呆気にとられた気分だ。
タクマはともかく、カズはトイレだろうがどこだろうが常に見張っていそうだったのに。
逃げられないとでも思っているのだろうか。
もしそうだとしたら、それは好都合だ。
なんとしてでも逃げないと。
とその前に。
やらなければいけないことがひとつだけあった。
急がないとあのふたりに感付かれてしまう。
楓は足早に体育館に向かった。

