「しっかし、分かってはいたけどだんだん減ってるな」
タクマは勢いよく壁際に腰掛けると、ぽつりと呟いた。
その表情はどこか浮かない。
なにが減ってきたのだろうか。
カズが二本目の煙草を口にくわえ、火をつける。
煙が宙を舞った。
「テツが呼び出しかけてんだけどよ。なかなか繋がらねえらしいんだよ、ケータイ」
「あいつらにとっちゃ信用していた頭に裏切られたようなもんだ。もうついていけねえってことだろ。仕方ねえよ」
「…なあ、タクマ」
「なんだよ」
「イツキ変わったよな。あいつがあんな風になっちまったのはやっぱりあの事件のせいだったりすんのか?」
「…オレに聞くなよ」
タクマとカズのため息がきれいに重なる。
事情を知らない楓はどうしていいか分からず、意味もなくそばにあったダーツの矢をじっと見下ろしていた。
"あの事件"ってなんだろう。
まさか殺人事件じゃないよね。
イツキと彼らの間に何があったのか気になるところだけれど、今は人の心配をしている場合ではなかった。
さっきからポケットの中が震えているのだ。
振動は何度も何度も繰り返し、止まることを知らない。
窓の外はすでに暗い。
連れ去られてもう何時間か過ぎていた。
――イツキが総長なんだよ、嬢ちゃん。
ということはそのイツキという男が現れるまでに早くここを抜け出さなきゃいけない。
しかしどうやって逃げようか。
ここから出るには裏門と正門。
けれど裏門はさっき見たとおりたくさんの人が群がっているし無事に出られそうもない。
残るは正門。
鎖で開けられないようになっていたけれど、登ればなんとか外に出られるだろう。
とりあえず今はこの二人が目を離したスキに逃げないと。

