「ああ。これでいい」


とイツキは言った。


「楓、前に俺に言ったよな」


――本当に解散したかったら、あの場所に行かなきゃいいじゃないですか。


「その通りだと思った。なんで俺は今もここにいるんだろうってずっと考えてた」

「イツキさん…」

「でも俺、分かったんだ」


イツキはゆっくりと楓に視線を向けた。


「俺の居場所はここしかないんだって。そう気付かせてくれたのは楓だよ」


目の前で白く大きな手が差し出される。


「総長交代。ありがとな」


そっとその温もりに触れる。

楓は彼からいつまでも手を離せないでいた。


「…楓?」


イツキが楓の顔を覗き込む。

突然の至近距離に驚いて思わず手を離した。


「どうかしたか」

「い、いえ。何でもないです」


慌てて真っ赤になった顔を隠していると、その様子がおかしかったのかイツキは肩を揺らしている。


「あんた、面白い女だな」


そう言って、優しい瞳で笑う彼はどこか吹っ切れたように見えた。