まさか守っていてくれていたと思わなかった。

元々はあたしが総長をやるなんてばかなこと言い出したからなのに。


「ごめんなさい…」


楓は目を伏せた。


「あたしなんか放っておけばよかったのに…。だってあたしは」


ふと、あの言葉が脳裏を過ぎった。


――あんたに関係ない。



「だってあたしは関係ない人間だから――」

「悪かった」


えっ、と楓は顔を上げる。

イツキは窓の外を見つめたまま呟くように言った。


「ひどいこと言って悪かった。ごめん」

「イツキさん…」

「それに」

「…それに?」


彼の黒々とした瞳と目が合い、どきりとする。


「あんたは放っておけない」


ヒュウ、と口笛が鳴った。

見るとタクマとカズがにたにたと怪しい笑みを浮かべている。


「嬢ちゃん、顔真っ赤だよ」


タクマに指摘されて、思わず顔を隠す。

恥ずかしい。

たぶん、というか絶対。

この二人はあたしの気持ちに気が付いているんだろう。

さすが勘が鋭い。

あたしはさっき分かったばかりなのに。

ちらり、と隣に目をやると彼は黙って煙草を吹かし、流れる景色を眺めていた。

あたしのこの高鳴る胸の思いを彼は気付いているんだろうか。

もし気付いてるのならこの思いに望みはあるんだろうか。

それを知るのはまだ少し怖かった。