――やばい!

落ちる!


楓は思わず目を瞑った。

その時だった。

ふわ、と甘い香りが鼻先をかすめる。


「お遊びはここまでだ」


聞き慣れた、低い声。

目を開けると、いつの間にかイツキが楓の体を支えていた。


「カズ。お前、ふざけるのも大概にしろ」

「知るか。その女が悪りいんだよ」


とカズは口を尖らせる。


「ガキか」


はあ、とイツキは軽く吐息をついた。


「そ、総長」


男が慌てて楓の腕から手を離した。

その顔色はひどく青い。

イツキは眉をしかめ、男を一瞥する。


「誰が人質にしろって言った」

「あ、いや総長。誤解です!ちょっと脅かしただけですよ」

「もう俺は総長じゃねえ」

「えっ」

「言ったろ。今日からこの女が総長だ」


しばしの沈黙。

まさか本気だとは思っていなかったのだろう。

彼らは呆気にとられて声も出ないようだ。


「分かったか」


しかしイツキが声をかけると、彼らは我に返ったように


「はい!」


と揃って、威勢のいい返事をした。