「誰が臆病だって?」

「そりゃタクマさんとカズさんに決まってる……………って、えっ!」


楓はとっさに隣に目を向けた。


「イ、イツキさん」


そこには肩を少し揺らして笑っているイツキの姿があった。

黒のTシャツのせいか首筋のタトゥーが映えている。


「おはよう、楓」


どくん、と鼓動が大きく高鳴る。

まさかイツキも乗っているとは思わなかったから不意打ちだ。

スモークガラスで気がつかなかった。

というよりタクマも笑っているところを見るとちょっとしたどっきりなんだろう。

いるならいるって言ってくれればいいのに。


――やばい。

心の準備ができてない。

何の心の準備か自分でもよく分からないけど。

彼に触れられたあの満月の夜を意識してしまって、なんとなく顔を合わせづらかった。


「お、おはようございます」


うつむき加減に挨拶を返す。

ふと鋭い視線を感じて助手席を見ると、カズが睨んでいた。


「それで誰が臆病だって?」

「あっ」


一気に現実に戻された。