「散々迷惑かけたんだから送り迎えぐらいしてやったらどうなんだ。関係ない人を巻き込んで悪いと思わないのか」


それはタクマとカズにとって耳が痛い話だった。

どうやらイツキはさっきのやりとりを聞いていたようで、その表情は呆れかえっている。


「…分かったよ。送りゃいいんだろうが、送りゃ」


イツキの視線に耐えきれなくなったのか、カズは半ば自棄気味になって、テーブルの上にある車のキーを取った。

ドアの外ではタクマが苦笑いを浮かべている。


「おら行くぞ、女」

「え、あっはい」


慌てて彼らの後を追いかけようとすると、イツキに呼び止められる。


「楓」


彼に名前で呼ばれるのは今日で二回目だ。

赤いソファーに座っていたイツキはおもむろに立ち上がり、右手を差し伸べた。

そしてその手はなぜか楓の頭の上へ。

状況が飲み込めずに楓は呆然とする。

ようやく分かったことはイツキが頭を優しく叩いていることだけ。

ポンポン、とそれは慰めるように。


「またな」


そう言って微笑む彼にどきり、とした。