「売られた喧嘩は買うのが筋」


それがガヤの口癖。

彼の特効服にはバカの一つ覚えみたいに"喧嘩上等"の文字が赤い糸で縫い表してある。

バカガヤめ。

仕方ない。
今日は歩いて帰ろう。

家まで決して近いとは言えない距離だけれど、運動だと思えばどうってことない。

外に出ると、空は夕陽が沈みかけているところで橙色に染まっていた。

フェンスの向こうで校舎の窓から江原先生が手を振っているのが見える。


「気をつけてねえ」


遠くで聞こえた声に楓は頷いて大きく手を振り返した。

帰宅途中、コンビニエンストアに寄って消毒液と絆創膏を何箱か買った。

ガヤのことだから今日も傷だらけの顔でやってきて喧嘩自慢してくるのだろう。

傷の手当てをするのが自然と楓の役割になっていた。

殴り合いの喧嘩なんか痛い思いをするだけで何の意味もないのに。

いつだかガヤにそう言ったら


「拳を交わすからこそ意味があんだよ」


と返ってきた。

やっぱりガヤの言うことは理解できない。