「さぁ。ご飯が出来たよ」
彼女はそう言い、テーブルにシチューを盛った皿を一つ置いた。
 俺は、彼女がまたキッチンに行って取ってくるものだと思ったが、彼女はそうはせず俺の前の椅子に座った。
「食わないのか?」
俺がそう聞くと、彼女は困ったように笑い頷いた。
 俺はどうしてとは聞かずに、1人で食事を始めた。
 彼女はその間、ずっと俺を見て嬉しそうに笑っていた。少し、照れくさかった。
 食事を終えると、俺たちはそんなに多くは話しをせずただ居間にいた。
 俺は意外だった。彼女は、俺が来たことを喜んでいたのに積極的ではなかった。
 ふと、彼女がテーブルに突っ伏していることに気付いた。
 かすかに規則正しい寝息が聞こえる。
 俺は寒いだろうと、自分の部屋に何か掛けるものがないか探しに行った。
 クローゼットを開けると、ホコリだらけの布があった。俺は無造作に埃をはらうと、居間に戻った。
 彼女はまだ、すやすやと眠っていた。
 普通の女の子に見えた。死を目前にした少女ではなく、本当に何も知らない少女に。
 俺は、彼女に布を掛けようとしてハッとした。
 思わず、奥歯を噛みしめていた。
 彼女には、感覚がないのだ。寒いも、暑いも、何も感じていない。感じられない。
 それが、現実だった。
 彼女に布を掛けて、部屋に戻った。
 俺は、目をぬぐった。何故泣いているのか、わからなかった。俺でも、人のために泣くことがあったのか。