白いかけら

 そしてお兄ちゃんは寒い雪の日に亡くなった。
 その日の朝、お兄ちゃんは珍しく居間にいた。顔もいくらか前のような優しさが見えた。
 私は少しほっとした。お兄ちゃんの悩み事はもう解決して、これから前みたいなお兄ちゃんと暮らせるんだって思ってた。
 朝食のシチューを運んできたとき、お兄ちゃんはほほえんで私に言った。
「ウィン。最期に歌を聴かせてくれない?」
私は嬉しかった。ホントに元のお兄ちゃんだって。
「最期なんて、縁起ないこといっちゃだめだよ」
私はそれがどんな意味か深く考えていなかったせいで、笑ってピアノの前に座った。
 ほこりのかぶったふたを開け、鍵盤に指を乗せる。久々の感覚に胸が弾んだ。
「リクエストある?」
「何でもいいよ」
私は大好きな歌を弾き出した。幸せな歌詞で、レクイエムのような調子。
 お兄ちゃんは静かに聞いていた。それなのに
 ガタンッ。
 後ろで大きな物音がして、私は演奏を中断して振り返った。
 そこには椅子から落ちて、床に転がっているお兄ちゃん。
 床には、朱が流れていた。
 お兄ちゃんの胸に、ナイフが突き刺さっていた。
 最期って、そんな、嘘でしょ。
「おにいちゃん?おにいちゃん!」
どんなに揺さぶっても、お兄ちゃんの閉じた瞼は開くことはなかった。