白いかけら

「ねぇ、歌おう」
俺の腕の中から離れ、両手を広げまぶしいくらいの笑顔で歌い出した。
 俺はその姿に、口元がほころぶ。
 しかし、俺を振り返った彼女の顔に涙が伝っているのに、俺は嫌な予感がした。
 歌は明るく、どこまでも幸せなのに、表情は悲しみに溢れていた。
 俺が彼女へ手を伸ばそうとしたとたん、彼女のまぶたは落ち、大きく後ろに傾いだ。
「ウィン!」
彼女の宙に投げ出された彼女の手は、俺がつかむ前におちていった。
 さくっと彼女の体が、雪の上に倒れる。
 俺は崩れ落ちるように彼女の側に膝を折る。
 震える腕で彼女を抱き上げると、雪のように冷たかった。
 このとき、やっと彼女が死んだのだということが、理解できた。
「あ…あぁぁぁぁぁぁ!」
こんなのって…。そんな。
 目を開けてくれ。ほら、おまえが生まれたときと同じ天気だ。お祝いに、歌を歌おう。
 おいていかないでくれ!どんなとこでも迎えに行くから、俺も連れてってくれ。
 何でもくれてやるから、彼女を戻してくれ!
 俺の声でも、感覚でも、命でも何でも。
 彼女が俺を覚えていなくてもいい。
 彼女がこの世界で生きてさえいればいいんだ。
 お願いだ!
 しかし、俺の祈りはむなしく、彼女の体は光になり、空に消えていった。
 また俺は、彼女の手をとることは出来なかった。
 行かないでくれと、いくら手を伸ばしても、彼女は温もりも残さないまま消えていった。
 俺の腕の中には、青いマフラーだけが残った。