「ごめん」
しばらく経ち、彼女は俺の腕の中で目を伏せ暗い顔で言った。
「何がだ」
俺には、解らなかった。彼女が俺に謝ることなんて、ないはずだ。
「迷惑だよね」
「そんなこと!」
「そんなことあるよ」
彼女は俺の腕の中から、ふらふらと危なっかしく離れていった。
 俺は、そんな彼女を止めることも支えることも出来ずに宙を抱いていた。
 彼女はテーブルで体を支え、俺に背を向ける。
「ただの通りすがりの人なのに、私の勝手でこんなところに留めてしまった」
「俺の意志だ」
彼女はまるで見えているかのように俺の方を振り返り、愛おしそうに目を細めた。
 目にはまた、きれいな雫が溢れてきた。彼女はぬぐうことをせず、俯き下唇をかんだ。
 涙を手のひらでぬぐい顔をあげると、いつものようににっこり笑った。
「もう、さよならだね」
「どうして!」
俺は立ち上がり、ものすごい早さで彼女に近づき肩をつかんだ。
 見えない彼女は、突然のことに肩を震わせた。
「もう、一緒にはいられない」
「意味がわからない」
俺は、彼女の心が読めない。だから、彼女の言っている意味がわかなくて、首を横に振りもう一度わからないと言った。
「わからなくていいの。ただ、今が別れの時期なだけ」
「そんなの・・・、イヤだ。俺は、ここにいたいんだ」
「無理よ」
彼女の顔から、笑みが消えた。