「一樹」

真由の病室の前で、中から出てきた母親と鉢合わせした。

「真由、今精神安定剤使って眠ってるの。
あと、一時間もしたら起きるとは思うんだけど」

寝不足の落ち窪んだ目をした母親は、毒気を抜かれたように力無く、疲れ切った顔をしていた。

「付き添い俺が変わるから。
一回帰って寝ろよ」

言うと

「………」

母親は意外そうに俺を見上げた。

「なに?」

「……ううん。……ありがとう、一樹」

荷物を持ち、帰って行く母親の後ろ姿は、

記憶の中の彼女より小さくて、

弱々しく見えた。