「嘘、一樹が!?」

通り掛かった教室から聞こえた声に俺は足を止めた。

――時田がなんだ?

半分開いたドアから、顔を覗かせる。

何人か集まっている女の子の中心に上条アヤの姿が見えた。

「間違いないよ。本人も否定しなかったしさ」

「でも吉仲先輩と時田くんは姉弟なんだよね?」

「弟が子供の父親とかヤバクない?」

――は?

動きを止める。

「だって、それって、近親相姦じゃん!!」


その言葉を理解するより早く。

ガンッとおもいっきりドアを殴った。

驚いた顔が俺を振り返る。

「人の噂話ばっかしてんじゃねーよ」

睨み据えながら、そう言うと、怯えた表情の女の子達を下がらせて、上条が前に出た。

「いいじゃない。
本当のことだもの」

挑戦的に見上げてくる上条に、俺は刺すような視線を向けた。

「最低だな」

言って背中を向ける。

廊下を歩きながら、俺はイライラと髪をかきあげた。