時田くんと待ち合わせした、三階の理科室へ向かう。

生物部の研究発表が展示されているだけのこの階は、人気もなく静かだった。

「……時田くん?」

教室の戸を開け、顔を覗かせると、ぼんやりと蝶の標本を見つめていた時田くんが振り返った。

何となく教室に入るのが躊躇らわれて、入口に立ったままでいるわたしに、時田くんは背中を向け、再び標本を見上げた。

「ねえ、佐和ちゃん。
蝶ってさ、自然の中でボロボロになって生きるのと、こうやって綺麗なまま針でさされて飾られるのとどっちが幸せなのかな?」