「……私が悪いの」

母親の涙声に顔をあげる。

崩れた化粧が、彼女を急に老けさせたように見えた。

「……真由に何か言ったのか?」

掠れた、低い声で問う。

彼女はハンカチを握りしめ、しゃくり上げた。

「あの子を叩いて責めたの。
……産まなきゃよかったって」

「ふざけんなっ!」

俺は思わず立ち上がって、彼女に拳を振り下ろした。

「時田!」

浅倉が後ろから俺を羽交い締めにして、母親から引き離す。

「ふざけんなよ!
真由がどれだけあんたに愛されたがっていたかあんたにわかるか!? 
真由は苦しんでいた!
あんたに振り向いて欲しくて!
あんたに認めてほしくて!
あんたがいなくなってから、真由は自殺未遂を繰り返してたんだ!
何度も何度も!!」

「私だって、真由を愛してないわけじゃなかったわ!」

母親は叫んで顔を伏せ、髪の中に指を入れ掻きむしった。

「でも真由のおどおどした卑屈な笑顔を見る度、まるで鏡を見せられているようで、辛かった!
あの子は昔の私そっくりで
……あの子が私に擦り寄ろうとするたび、惨めな過去がついてまわってるみたいで怖かったのよ!!」

「……なんだよ、それ。知らねぇよ。
勝手な理屈こねんなよ。」

俺は呟いて浅倉の手を振り払い、母親の横を擦り抜けた。