「本当に蓮は関係ないの。
彼はただ傍にいてくれただけよ。
私と彼の間には何もないわ」

顔をあげてそう告げると、母は座ったまま、私を睨みあげた。

「だったら父親は誰なの!?
相手の名前を言いなさい!」

「嫌よ!」

叫んだわたしに、母は驚いたような顔をした。

母に逆らうのは初めてで。

わたしはがくがく震える足を必死に踏み締めて、首を振った。

「……嫌よ。言えない」

母が目を吊り上げ、立ち上がる。

力いっぱい振り下ろされた手が、頬で高い音を立てた。

「高校生の癖に妊娠なんて。
私が学校でどれだけ恥ずかしい思いしたと思ってるのよ!
その上相手も言えないなんてふざけるのもいい加減にして!」

額を押さえ、足を組んでソファに座る。

「……あんたなんか産まなきゃよかった」

吐き捨てるように言って、母はバッグからメンソールの煙草を取り出すと、口に挟み、細身のライターで火をつけた。

ひりひりと痛む頬を押さえながら、私は溢れ出しそうになる涙を堪え、部屋に入って鍵をかけた。