マンションのリビングのソファに座り、母は大きなため息をついた。

「明日、病院に行くわよ」

コメカミを押さえながら、そう言って、セカンドバッグから頭痛薬を取り出す。

ミネラルウォーターを開け、タブレットを口に含むと、流し込んでサイドボードに置いた。


「浅倉くんだったかしら?連絡して」

「……どうして、蓮に?」

立ったまま尋ねると、母はソファにもたれ込んだ。

「中絶の同意書にサインを貰わないといけないでしょ?
別れたって、責任がなくなったわけじゃないのよ」

「父親は蓮じゃないわ」

「じゃあ、誰なの?」

「………」

黙り込む私に母は苛立ったような目を向けた。

「答えられないなら、浅倉くんに頼むしかないでしょ。
あなたが言えないなら私が話すから。
電話貸しなさい」

「やめて! 彼を巻き込まないで!」

私は首を振って叫んだ。