「…一樹」

振り返った彼女は、俺に気付いて細い眉を上げた。

「そう言えば、あなたもこの学校だったわね?
久しぶりね。
元気にしてた?」

社交辞令じみた、母親の口調にイライラしながら、顔を逸らす。

「お蔭様で」

素っ気なく答えると、彼女は俺に歩み寄り、手入れの行き届いた細い指を伸ばした。

「制服はきちんと着なさい。
品性を疑われるわ」

「俺はいまさら母親面する、あんたの神経を疑うけどね」

逃れるように身を引く。

「相変わらず反抗的ね」

母親は不機嫌に溜息を漏らし、真由を振り返った。

「帰るわよ」

命令するような強い口調で告げ

それから、もう一度俺を見上げて、声を潜めた。

「真由のこと知ってるわよね?
この子には頃合いをみて、他校に編入させるから。
あなたも学校では、余計なこと一切言わないで頂戴ね」

「どういう意味?」

尋ね返すと

「何もなかったってことよ」

母親はしれっとした顔でそう言い切った。