「……なにが?」

「一樹が浅倉くんを嫌ってる理由よ」

一瞬黙った俺の顔を伺うように見て、アヤが肩から手を離す。


「…………へー?なんだろう?」

俺は無表情のままポケットに両手を入れて、歩き出した。

思い当たるとしたら、真由のことしかない。

家庭科室でのことを紗耶香が話したのだろう。

―――くそ女

内心で毒づく。

「ねぇ、何で隠してるの?」

アヤが腕に絡まる。

「隠すって?」

惚けて問い返すとアヤは、

「だから……」

言いかけて、言葉を切った。

少し考え込むように間を開けた後、彼女は立ち止まって俺を見上げた。

「ねぇ、一樹。いいこと教えてあげよっか?」

アヤの言葉に視線を下げる。

彼女の策中にはまるつもりはなかった。

この女は危険だ。

1がバレれば、芋ズル式に10がバレる。

なにもかも知らないふりで押し通すつもりだった。