ただ、キミが好き

「佐和さん?」

藤平くんの声が聞こえたけれど、返事をしないまま蓮くんを追って廊下に出た。

階段へ曲がる後ろ姿を見つけ、小走りに追いかける。

なんでだろう。

無性に二人で話がしたかった。

どんな話でもいい。一言でもいい。


あんな顔の蓮くんを、放ってなんておけない。

「きゃっ」

階段へ向かう角を曲がった途端、いきなり後ろから誰かに抱きすくめられた。

ぎゅっと、肩に回る腕に力が篭る。

「……どうしたの?」

わたしはその腕に、そっと手を添えて尋ねた。

振り返らなくても分かる。

ほんのり香る香水の甘い香りも、優しい温もりも、背中に伝わる少し早めの鼓動さえ、全てが愛しい人のものだから。

蓮くんはわたしの肩に頭を載せるとふっと笑った。

「ごめん、ミコ。ちょっとだけパワーチャージさせて?」

「………」

わたしは蓮くんの腕に添えた手にきゅっと力を込め、
泣かないように、天井を見上げた。