人気のない階段の下で立ち止まり、藤平くんは複雑な顔で振り返った。

「佐和さん、気を悪くしないでくれる?」

固い声で前置きして、藤平くんは重い溜息を漏らした。

「佐和さんによくない噂がたってるんだ」

「……なに?」

「う、ん」

「藤平くん?」

彼らしくなく言い淀む姿に不安を覚えながら促す。

藤平くんは両手をポケットにいれて壁に寄り掛かり、じっと自分の上履きの爪先を見つめていたが、やがて顔を上げてわたしを見た。

「佐和さんが中二のとき、塾の先生に暴行されたって」