藤平くんは、不思議そうにわたしを見たけれど、敢えて深くは追求してこなかった。

――あの道を通ると必然的に鳴海先生に襲われた公園を横切ることになる。

あの場所に、近づく勇気はまだなかった。



『なんで、つきあってくれないの?好きだっていってるのに』

血走った目が記憶を過ぎる。

『黙らないと痛くなっちゃうよ』

カッターナイフの刃を繰り出す音が耳に響いて――…



「……さん。佐和さん?」

わたしは藤平くんの声に、はっとして顔を上げた。

「大丈夫?顔青いよ」

覗き込む彼から、びくっと身を引いて、周りを見渡す。

「あれ。松田さんたちは?」

混乱して頭を押さえるわたしに、藤平くんは困ったように道を指差した。

「さっき別れたよ。
本当大丈夫?
道、こっちでいいんだよね」

「あ、うん。ごめんなさい。ぼーっとしてたみたい」

謝って後に続く。

記憶を払うように、軽く頭を横に振った。