紗耶香くらいに頭が悪ければ、いくらでも誤魔化がきく。

でも、アヤは妙に勘がいい。

噂話を生き甲斐にしているような、あの女が、真由に興味を持てば、マズイことになるのは目に見えていた。

――あんまり、時間がない

イライラしながら、新しい煙草を取り出す。

アヤが騒ぎだす前に、この学校から姿を消さなければ。

「昨日のこと、アヤちゃんに話した?」

問うと、紗耶香は顔を曇らせて首を振った。

「途中で拒否られたなんてアヤなんかに話したら広められるもん」

「よかった。俺、口の軽い女嫌いなんだよね」

言いながら煙草をくわえた途端、紗耶香が胸に飛び込んで来た。

「ねぇ一樹! わたし一樹が好きだよ?
私だけを見てよ!
佐和ミコトなんて辞めて。
ねぇ、お願い!」