「ミコトちゃんは元気か?」

何気ない問いに、びくっと肩が揺れる。

「元気だよ」

自然に答えたつもりだった。

でも、目敏い父親は何かに気付いたかもしれない。

俺は動揺を悟られたくなくて、俯いてフォークを動かした。

「ミコトちゃんはあの事件からまだ立ち直れてないんだろ?」

「…う……ん」

顔を伏せたまま、返事を返す。

目玉焼きの形だけが無意味に崩れて、プレートを黄色く染めた。

「お前がいなくなるまでに何とかしてやれたらいいんだけどな」

父親が机に肘を付き溜息を落とす。

俺はガチャンとフォークを机に置き、立ち上がった。

「ごめん、俺学校に行くから」

言い訳のように告げる。

そのまま傍らの鞄を持ち上げ、家を出た。