ただ、キミが好き

「待ってよ一樹ぃ」

短い沈黙を破る、紗耶香の声が頭上から響いた。

真由は俺の乱れた制服を一瞥し、無表情に顔を逸らした。

何事もなかったように階段を昇り、俺の横を他人の顔で通り過ぎて行く。

思わず、腕を掴んだ。

真由が驚いた表情を浮かべ振り払おうとする。

紗耶香の足音はもうかなり近いとこまで来ていた。

俺はそのまま強引に真由を引っ張り階段を降りた。

三階はほとんどが理科室や実習室になっていて人気がない。

それでも真由は不安なのか、辺りを見回し俺の手を離させようと必死になった。

「一樹!」

低い声で責めるように真由が俺を呼ぶ。

俺は聞こえないふりをしたまま、すぐ近くの空教室のドアを開け、真由を引きずり込んだ。