「じゃね。蓮くん」

下駄箱で手を振って、ミコトが廊下へと姿を消すと、俺は眼鏡を外して、胸ポケットへとしまった。

一気に周りの空気が温度を落とす。

つまらない日常へと、加速度的に心がシフトしていく。

一瞬で

俺は、僕ではなくなった。

「ひー。相変わらず、恐ろしい変わり様だねー」

突然聞こえた、暢気な声に、眉をひそめて振り返る。

「おっはよん。浅倉っち」

額で翳した手を前に突き出して、阿呆丸出しの挨拶をしながら、クラスメイトの時田一樹がステップを踏みながら近寄って来た。

「………」

溜息をついて、無言のまま歩きだす。

「無視? 無視なん? ねえねえ浅倉っちー!」

「うるさい」

頭を押しやって遠ざけると、時田は

「セットが乱れるぅー」

と騒ぎながら、懲りずに俺の肩に手を回して来た。