「俺、学校いくね。これでも東大狙いの特進クラスだから授業はうけないとね」

浅く笑って

ゆっくり彼女を振り返り、わざと問いかけた。

「どうせなら、一緒に行かない?」

「一樹!」

咎める彼女の声を、制するように手を挙げ、唇の端を上げる。

「はいはい。学校では他人のフリでしょ?わかってるよ。俺達のことは秘密だもんね。口も聞かない。目も合わせない。ルールは守るよ」

投げやりに言って、腰を屈め床に落ちた鞄に手を伸ばす。

顔をあげる瞬間、椅子にかけられたカーディガンが視界に入って

動きをとめた。

「…これ、早く返しなよ」

「………」

「寒くなってきたし、あいつにも必要でしょ?」

「………」

「真由?」

「……一樹には関係ないわ」


ぶちっと、

頭の中でなにかが切れる音がした。