「確か、琴音さん、でしたよね?」


疑問文はさほど迷っている風でもなく、さらりとあたしの名を呼ぶ。

「ええ、知っていてくださるのね、光栄ですわ。」

「…何だか、そんな丁寧な口調だとくすぐったいです」

冴木さんは居心地悪そうに笑った。

「慣れた口調は中々変えられませんわ。冴木さんが敬語なんて使わないでよろしいのよ。私の方が年下ですし。」

悪戯にウインクするとやっと彼女は肩を下ろしてあたしにメニュー表を渡す。

「おなかすいた。ハンバーグにしようかしら」


あたしの言葉に目を丸くする彼女がおかしい。何か変な事言ったのかしら。


「じゃあ私は日替わりのパスタにします。ここの美味しいから」


今度は照れくさそうに笑う彼女。表情のよく変わる人。それがあたしの印象だった。